巷でよく聞く糖尿病。何となくやばい病気だってのはみんな知っているけれど実際何が怖いのかと聞かれると答えられる人は多くないのでは?今回と次回を通して、糖尿病の怖さについて解説していきます。
糖尿病で手足が壊疽し、黒くなっている人の画像を見たことがある人も多いでしょう。こうなってしまったらその部分を切断しなければなりません。糖尿病で脚切断(膝上などの大腿切断)を行った場合、5年生存率は40〜60%程度とかなり低いです。脚切断の予後はかなり悪いです。
今回はそんな壊疽について詳しく解説していきます。
高血糖下では以下の症状が引き起こされます。
①血流障害
②免疫低下
これらの症状について見ていきましょう。
①血流障害について
血流障害は以下のメカニズムで引き起こされます。
(i)血管内皮細胞の損傷
血中の過剰な糖が血管の内皮細胞に取り込まれ、活性酸素が生み出されます。これにより、血管が傷つきます。
(ii)AGEs
糖とタンパク質が結合し、AGEsという物質が蓄積します。このAGEsが血管のコラーゲンを硬化させるため、動脈硬化が起こります。
(iii) 血栓の形成
高血糖状態では血液の粘度が増し、血小板が固まりやすくなります。これにより微小な血栓ができやすくなり、特に足先の微小血管が詰まる原因となります。
②免疫低下について
(i)機能低下
高血糖により、白血球の遊走能、貪食能が低下し、補体活性が阻害されます(※1)。
(ii)細菌の繁殖
グルコースは細菌が繁殖するためのエネルギー源です。血糖値が高いと、それだけ細菌が繁殖しやすいのです。
では、血流障害、免疫低下によりなぜ壊疽が起こるのでしょうか。
①血流障害について
血流に乗って酸素、栄養が各細胞に運ばれます。この酸素を用いてミトコンドリアがATPを作ります。血流が障害されるとこの仕組みが妨げられ、ATPが作れなくなり、ナトリウム・カリウムポンプが停止します。その結果、細胞内外のイオンバランスが崩壊し、細胞内に水が流れ込んで来て細胞の浮腫が起こります。最終的に細胞膜が破れ、細胞が死滅するのです。
また血液には老廃物の回収も担っています。血流が止まるとその老廃物が蓄積し、周囲の組織のダメージを加速させます。
②免疫低下について
免疫が低下すると当然細菌が増殖します。その細菌の毒素が組織を破壊します。また、免疫反応が遅れることで過剰な炎症が起こり組織の破壊が広がります。激しい炎症が起こると、傷ついた細胞や単球から組織因子が放出され、これが外因系凝固反応を引き起こすのです(※2)。結果、血栓が出来て血流が滞り、壊疽が引き起こされるのです。
さらに、炎症→壊疽→壊疽した部位からの炎症物質の放出→炎症
というように、炎症と壊疽のループが生じてしまうのです。
以上の理屈により壊疽が引き起こされます。
手足がなくなったらとんでもなくQOLが下がりますね。さらにとんでもなく予後が悪い。これだけで恐ろしい病気だということは十分に伝わったと思います。
次回は更に、失明やその他の症状について解説していきます。
(※1)
・白血球の遊走能が弱まる理由
白血球が血管から組織へ出ていく際、血管へ一時的に接着します。その接着因子が糖化されることで接着能が弱まり、遊走能の低下に繋がるのです。
また、白血球内に糖が過剰に入るとソルビトールという物質が蓄積します(この反応経路をポリオール経路といいます)。それにより細胞内の浸透圧が上昇し、水分が白血球内に入り込んで白血球が膨張します。結果、白血球は変形能を失い、遊走能が低下します。
・白血球の貪食能が弱まる理由
白血球は貪食を行う際に活性酸素を用います。この活性酸素を作るにはNADPHが必要になるのですが、NADPHは先述のポリオール経路で消費されてしまいます。結果、活性酸素が産生できず、貪食能が低下します。
・補体活性が阻害される理由
高血糖状態では血液中の補体が糖化され、細菌の表面にくっつく能力が低下してしまいます。結果、補体活性が低下します。
(※2)
組織因子とは、血管の内皮細胞の更に奥の層や血管外に存在している、血液凝固を引き起こすタンパク質です。この組織因子は血中の第VII因子という凝固因子と結合することで血液凝固が引き起こされます。血管壁に遮られているため、普段は第VII因子と組織因子が出会うことはありません。しかし、炎症や感染で血管の内皮がボロボロになると組織因子が血液と接触して第VII因子と結合します。これにより複雑な凝固プロセスが一気にショートカットされ、トロンビンという物質が作られます。このトロンビンが血中のフィブリノゲンをフィブリンという粘性のある物質に変えます。その結果、血栓ができるのです。
本来この仕組みは出血を止めるのに有用なものですが、糖尿病だと血管内のみがボロボロになるので壊疽という形で不具合が起こります。
自分の体の外側(組織側)にある組織因子がきっかけで血液が固まるため、外因系凝固反応と呼ばれます。

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